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ブレーキ故障のおそれ
でも大丈夫です!?
(中部電力株主 東井 怜)
歴史は繰り返す、とは言うものの原子力での失敗の繰り返しはごめんです。ところが東電不正発覚に続く一連のシュラウド・配管ひび割れ問題と同じ事態が現在ひそかに進行中です。
ひびだらけの原発心臓部/今度はブレーキ=「制御棒」に
原子炉の持病「応力腐食割れ(SCC)」が、ついに制御棒*1にも顕在化しました。他電力の例ですが、単にひび割れにとどまらず、カバーが剥がれ落ち、欠けてしまったのです。ことは重大です。
新たなひび割れ問題として注目を集め、同型の原発(BWR型)を所有する全電力へ波及し、使用済みの制御棒の検査がなされたり、運転中の制御棒への対応が試みられたりしています。過去に使用したものを調べたところ、すでに浜岡原発を含む4原発で157本中32本にひびが見つかっています。ご同類の問題と考えるべきでしょう。
しかし今回は、運転中の原子炉を止めて検査するということにはどこもなっていません。制御棒とは、言うまでもなく、原子力発電の運転ブレーキそのものです。ブレーキに異常をきたしているかもしれないというのに、平然と運転を続けていていいのでしょうか。とりわけ想定東海地震の切迫性が警告されている我が中部電力浜岡原発の場合、制御棒の一斉挿入による緊急停止は、いつでも絶対的に保証されていなければならないのに、とんでもないことです。
しかも肝心の情報はほとんど開示されず、真実が隠されたまま規制庁である原子力安全・保安院による危険な対策・対応が続けられているのです。それらに対して数々の疑問を中部電力に投げかけているのですが、未だに答えてもらえません。保安院や東電からも不十分な回答しか得られていません。4年前のひび割れ問題当時より何歩も後退している状況と言わざるを得ません。
以下、あまり報道されていない事実を中心にお知らせします。
不可解な東電のプレス発表 ――福島原発の制御棒「破損」事故
今回の問題の発端となったのは東京電力福島第一原発6号機です。定期検査中に全挿入動作試験をしたところ、挿入できない制御棒があったので、駆動水圧を上げて挿入した。その後1月9日に水中TVカメラで調べたところ、ひびのようなものが見付かったというのが発端です。
翌10日には、制御棒が一部「破損」していることと、十文字の8面すべてに多数のひびをみつけたそうです。(図)この時点の損傷状態は、5センチほどの幅で下方に向かってめくれが生じているもので、スケッチ図が付いています。
18日になって、その破損部の周囲がすでに剥がれ落ちているのに気が付いた、と発表されましたが、ここまではすべて福島第一原発でしか広報していません。
東電本社で始めてこの事故について広報したのは翌19日ですが、内容は装荷中の同型制御棒総数17本の外観検査を実施、うち9本にひびを発見したというもの。その検査は、全数で185本ある制御棒のうち、破損した制御棒と同じ仕様のタイプ(調整用のハフニウム板型)のみに限定しており、他のタイプは行っていません。またこの時点で始めて保安院に報告したとのことで、同日保安院は、すべてのBWR所有電力会社に対し、ハフニウム板型制御棒の使用状況等の報告を、さらに運転中の炉では動作確認試験を行うよう指示しました。
その後1月25日になって、欠損部の破片が19日に回収されていたこととその写真が、第一原発で公開されました。なぜか25日まで伏せていたのです。また公開した写真は1枚のみで、欠損部や周辺部の様子は今なお何もわかりません。サイズは11センチ×8センチという大きなもの。厚さは0.8ミリです。
同じ日東電本社では、保安院の指示に応えて、ハフニウム型の使用状況等を報告し公表しますが、欠損部の回収については、写真はおろか一言も触れずじまいでした。
2月1日、東電は200ページほどもある報告書を保安院に提出します。しかしその中にも回収した破片の写真は見当たりません。その上、この報告書を東電では出し渋っており、情報公開の姿勢からはほど遠い態度です。
いつ破損してもおかしくない状況
制御棒とは、「棒」とは言うものの十字に板を組み合わせた長さ4m近いブレードです。中に中性子を吸収する板または棒が詰めてあって、それを囲っているのが、応力腐食割れを起こすとして有名になった低炭素ステンレス鋼SUS316Lの板です。この制御棒のカバー等にひびが発生し、損傷したのです。
そのひび割れは、2月1日の報告書に記されたスケッチ図によると、なんとも無残なものです。ひび割れはすべての面に見られ、1枚のブレードの中央より上部に何本も派手に走っています。ひびの深さは記してありませんが貫通部も多いようです。中にはひびがほぼ一回りして、何もしなくても剥がれ落ちてルースパーツ化しそうな部分があります。すでに穴が開いてしまったように見える部分もあります。早晩次々と剥がれが生じて、ぼろぼろと落ちるところだったのではないでしょうか。
保安院が事故隠しを誘導?
制御棒(板)は、停止操作時、きわめて狭い隙間を、4m近い長さにわたって下から上へと挿入されるのです。剥がれ落ちた金属片がその隙間に噛み込んでしまえば、全長の挿入ができなくなります。ブレーキが利かない、すなわち運転停止の失敗です。とりわけ事故や地震などの緊急事態の際の緊急停止失敗は、考えるだに恐ろしいことです。BWR型の原子炉の場合、炉内は激しく沸騰しています。金属片は熱水の中で暴れまわって何処へ入り込むか分ったものではありません。
これがいかに深刻な事態であるかは、保安院までが破損の事実を抹消しようとしていることからうかがい知ることが出来ます。こともあろうに、規制局たる保安院が、“ひび及び破損”を“ひび等”と称するという、事故隠しまがいのことをしているのです。
保安院の初の広報は1月19日ですが、その中で『ひび及び破損(以下「ひび等」という。)』という表現があり、以後はすべて「ひび等」です。ただしそれはプレス用で、じつは各電力への正式な指示文書では、「ひび及び破損」としているのです。マスコミ各社の報道記事になると、「等」も抜けて結局「ひび」問題となってしまったのです。
東電は隠し切れず――福島第一・3号機でも「破損」事故
冒頭に書いたとおり、東電は福島第一・6号機の破損を、運転停止後のことと推定しています。動作確認試験中に生じたもので、破片もすべて回収したといいます。しかし0.8mmも厚みのあるステンレスです。いきなり破損に至るとは考え難く、運転中にすでに破損しかけていたことは十分推測されます。
現に3月3日になって、福島第一・3号機でも破損とひびが見付かったという発表が東電本社からありました。今度は定期検査中との言い訳はききません。運転中に再循環ポンプが不調のため手動停止したので、制御棒の目視検査をして見つけたのです。通常はしない検査ですが、6号機の破損事故を受けて行ったのです。
手動停止する際に壊してしまったのか、運転中にすでに剥がれていたのか。あるいは、保安院の指示により運転中に実施した動作試験(当時は異常なしと報告)で、壊してしまったのかもしれません。いずれにしても、制御棒を動かした際に剥がれ落ちるというのがもっとも自然ですから、運転中の動作確認試験を指示した保安院の見識が疑われます。
運転を止めずに動作確認試験を実施して異常なしとされ、現在も運転継続中の原子炉の中に、同様の例が他にもあるかもしれません。
ひびから破損に至る危険性については不問!
保安院がいかにごまかそうと、福島第一・6号機も3号機も単なるひび割れではなく、制御棒「破損」事故です。ひびが進展して金属片が剥がれ落ちたのです。大きな破片が炉内から回収されましたが、他に破片は生じていないでしょうか。
非常に奇妙なのは、一連の事故報告の中でこのルースパーツのことがまるで登場しないことです。200ページ以上はあろうかと思われる東電の報告書(2月1日に保安院に提出したもの)にもみつけることはできませんでした。
小さな破片、および粉状のものが、激しく沸騰するBWR型原発の炉内で流路をふさいだり、燃料棒を傷つけたり、はては高温の燃料棒に癒着したりすれば、順調な冷却を妨げ局所的な炉心溶融すら惹き起こしかねないのです。金属片の噛み込みに次いで安全上問題になるのがこの点であるはずですが、金属片・金属粉に関する安全性評価はなされていません。
即刻の運転停止以外に選択肢はない!
こうした環境や過去の例を考えれば、運転中の原子炉については直ちに停止して点検するべきです。ところが保安院は運転停止して検査するよう指示する代わりに、運転中の原子炉に対する当面の対策・対応として、@ 炉内にある同型の制御棒の動作試験をすること、A ひびの発生しているおそれのある制御棒を全挿入状態にして運転継続するよう指示したのです。なんとも解せない対応です。
何をしようと、この際止めてしまうのなら許される(止むを得ない)でしょう。ところが、炉内で制御棒を動かした後、運転を続けさせているのです。
全挿入状態にするよう指示した理由は、おそらく緊急停止時に失敗することを恐れたのでしょう。ですが今のうちに手動停止しておけばそのような危惧は不要です。しかるに逆に運転継続させることによって、さらに金属片・金属粉を生じさせ、そのいたずらによって緊急停止はおろか手動停止の失敗すら危惧される事態にしてしまいました。金属粉は全身を巡ることとなるので、何処に影響してくるか分ったものではありません。
とりわけ危険な浜岡原発
また仮にそうした金属片・粉がなくとも、一部の制御棒の全挿入措置によって、制御棒の利きが悪くなり、これまた緊急停止失敗へと繋がるおそれを孕むのです。浜岡原発4号では対象となる制御棒が多いため、この全挿入によって40万KWも出力が低下し、次の定検までおよそ70万KWで運転継続したのです。このような低出力運転は、これまでに例もなく、実証もされていません。
そもそも浜岡原発3号で使用された制御棒の点検によって、17本中13本のひび割れが検出されています。他プラントに見られないほど高い比率であり、累積中性子照射量も格段に高いのです。
繰り返す制御棒の変形・破損
東電の説明では、今回のひび割れは「東芝製」の「ハフニウム板型」タイプで、中性子を一定量以上浴びたものに限って出た応力腐食割れと断定し、保安院もまたそれを追認しています。制御棒も、これまでに様々なタイプが開発されてきました。その都度、ひびや変形の問題を惹き起こしてきたのですが、今回は今度こそ、と期待された新型だったのです。再循環系配管やシュラウドとどうよう、金属素材そのものが未だに解決されていないことを示しています。
今回はとくに中性子照射の激しい炉内中心部に使用される制御棒に集中したものとみられています。またしても、中性子に抗してひび割れを完全に防止できる金属はない、ということを思い知らされることになりそうです。中性子発見からわずか70年余り。中性子照射による金属等への影響も、まだまだ未知の部分があるのです。
それにしても再循環配管やシュラウドのときには、このように壊れるに至ったものはありませんでした。事態はより深刻であるのに、国や電力の対応はより甘いのです。救いようの無い状況といわざるを得ません。
(注:*1)制御棒とは、核反応を進行させるのに必要不可欠の「中性子」を吸収する働きをするものです。化石燃料の燃焼に例えれば、酸素を吸収してしまう素材ということになります。中性子の量をコントロールすることで、火力(火勢)を調節するのです。火を消したい時には、制御棒を全挿入することで、核反応をとめます。
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