<新刊パンフの紹介>

浜岡原発 1号機事故は終わらない

   〜 中部電力「最終報告」を批判する 〜

---つづき---

 

6.ひび割れは「見ない」「知らない」

 圧力容器の制御棒駆動機構ハウジング(CRDハウジング)と圧力容器の溶接部で応力腐食割れが発生し、1時間当たり60cm^3(私たちの実験では420cm^3)の漏えいが発見されたのですが、そのひび割れの様子を顕微鏡で見たものが図13です。

 これを見ると、(1) ひび割れの表面の幅は約50ミクロン (2)ひび割れは表面の幅より、金属内部の幅が2倍くらい大きい部分がかなりの長さ存在することが分かります。

 中電は、ひび割れしたCRDハウジング以外の88ヶ所のCRDハウジング溶接部を水中カメラで目視点検し、異常がなかったと報告しています。(「最終報告」(乙)P.12,P.51,P.126〜127)
 この時使用された水中カメラは、0.025mm(25ミクロン)幅のワイヤを識別する能力があるとのことです。25ミクロン幅のワイヤが識別できると言う場合の能力とは、識別に最も良好な条件の中で達成されたものでしょう。

「最終報告」(乙)ではCRDハウジング溶接部については「外表面は溶接時の仕上げ加工で用いられたグラインダ痕が見られた」とあります。ひび割れと見間違えるようなグラインダの摩擦線条痕がいっぱい付いており、小さなひび割れは見落とす可能性が高くなります。さらに溶接部表面にある酸化物(サビ)の付着がひび割れを埋めて見えにくくしているに違いなく、いっそうひびを見落とす可能性を高めているはずです。このように識別環境が悪いため、とても25ミクロンの識別能力がそのまま発揮できるとは思えません。仮に能力が十分発揮されたとしても、25ミクロンより小さいひび割れは見つけられないのです。

 水中カメラでは発見できないひび割れを見つけ出すため、私たちは中電に浸透探傷試験を実施するように求めてきたのですが、中電はそれを拒否し続けています。


 去年8月29日の東電事件以降、原発各所で何百ヶ所と頻出しているひび割れの事実からも、89ヶ所のCRDハウジングの1ヶ所だけ貫通するひび割れが発生し、残りに何のひび割れもないというのは常識では考えられません。今のような水中カメラによるひび割れの目視点検である限り、後に再々度(88年の中性子測定器収納管ひび割れ水漏れ事故を含めて)ひび割れ水漏れ事故が起きたとしても、中電は“グラインダの線条痕と見間違えて”、或いは“酸化物がひび割れをふさいでいて”等の理由で「見逃していた」と弁明するでしょう。水中カメラによる目視点検はむしろ、ひび割れを発見しないための「検査方法」ではないだろうかという疑いをぬぐい切れないのです。

(02/02/21 第12回 原子力安全委員会臨時会議 資料(3)「中部電力(株)浜岡原子力発電所1号機における制御棒駆動機構ハウジング部からの漏えいについて(金属調査及び他のスタブチューブ下部溶接部点検結果の報告について)」参照)
http://nsc.jst.go.jp/anzen/shidai/genan2002/genan012/genan-si012.htm

7.「安全第一」?  いや「営業第一」!

 中部電力は「安全第一」「安全を最優先」と言います。当然のことですが、果たして本当でしょうか?
 水素爆発事故で原子炉を停止したわずか40時間後、格納容器内の圧力容器の下にもぐり込んで「放射線管理員と保修員」が制御棒駆動機構からの水漏れを発見します。この辺を時系列で見ると下表(「最終報告」(乙)P.18から作成)のようになります。

事 象 発 生 時 の 時 系 列
11月 9日 13時50分頃 格納容器内点検開始
15時30分頃 漏えい発見
15時40分頃 格納容器内点検終了
16時頃 原子炉水であることを確認
11月10日  9時30分 漏えい箇所の詳細点検準備

 これからわかることは、原子炉停止後、待ちかねたように格納容器内に入り、2時間かけて「漏えいを探」し、「発見後10分」で、つまりすぐ点検を終了しています。まさに“目的”を果たしたからすぐ終えたのです。中電は漏れを知っていました。「格納容器内露点温度が徐々に上昇傾向を示していたことから、監視に注意を払うとともに関係各課に情報伝達」(同P.4)していたのです。しかし、「原子炉水の漏えいとの認識に至ることなく、運転を継続した」(同P.4)というのです。

 はたしてそうでしょうか?

 

 彼らが“誤解”したのが右頁<図14>です。第19サイクルの上から2番目と3番目のグラフの変化の原因が、一番上の圧力抑制室水温の上昇にあると考えたのです。つまり抑制室水温の上昇によって蒸発量が増えた結果だというのです。皆さんよくご覧になって判断してください。

 1つ言えば、抑制室の水温の変化は、それ以前のサイクルの通常の変化の範囲内であるのに対して、下の二つは明らかに違うということです。“誤解”したもうひとつの原因は「ドレンサンプ水及び格納容器内ガスの放射性核種の分析では、通常運転中に見られる変動範囲内(同P.4)であったということです。

 しかし、後に前者については「漏えい監視データを詳細に分析することなく季節変動によるものと判断したことは適切ではなかった」(同P.4)、後者については「放射性核種の分析については、漏えいの量、場所などによっては漏えいと確認できない場合があることを認識していなかった。」と何とも呑気な反省をしています。

 実は現場は原子炉水の漏れを認識していたはずです。しかしこの時運転員の脳裏に浮かんだのは、13年前の同じ圧力容器下部で起きた「中性子計測管ひび割れ・炉水漏れ事故」だったのでしょう。
──圧力容器からの炉水漏れで再び運転を止めるということは絶対に避けたい! 幸い保安規定で定めるドレン流量の制限値以下であったこと、露点計のデータも安定してきた(図15)ことから、次回の定期点検まで運転強行!──を決意したにちがいありません。

<図14>(クリックで拡大します)

<図15>(クリックで拡大します)

 重要なことは、大丈夫であろうと彼らが勝手に判断したということです。そして、事故後の発表で(「最終報告」でも)そのように偽ったことです。安全第一は偽りなのです。

 発見時の漏えい率についても、1時間あたり60cm^3と発表していますが、滴下のビデオを見て、実際に水道水で10分間で3回実験した結果は、70cm^3/10分。つまり1時間あたり420cm^3でした。この点を中電との交渉で指摘した時、本社原子力管理部職員は「測定したと言ってたけど・・・」と言うのがやっとでした。

 おそらく、運転中の漏えい率を約80リットル/日(0.00335m^3/h)と最初に決めてしまったので、それから算出された数字ではないか、と私たちは推測しています。

8.老朽化と東海地震

 制御棒駆動機構収納管(CRDハウジング)のひび割れ・水漏れ事故は、1988年に同機で起きた中性子計測管ハウジング(インコアモニタハウジング)のひび割れ・水漏れ事故を想起させます。両者は下鏡部(=圧力容器の底の部分)での位置ということに関して、ともに周辺部に位置し、鏡面の傾斜が大きいという共通性があります。(図16)

 図16の下の図は、中心部と周辺部のスタブチューブの取り付け角度のちがいを示しています。

<図16>(クリックで拡大します)


 中部電力は、今回の溶接部のひび割れスタブチューブを「当該部」とし、対照例として中心部のスタブチューブを「代表例」として、それぞれ1個だけでのモックアップ試験を行っています。モックアップとは、実機を模擬した溶接の再現です。(ただし、モックアップ試験片のタテ・ヨコの大きさは不明です。)溶接手順は図17のように異なるということです。

 たった一体ずつのモックアップだけで残留応力を測定し、その結果を信用して判断したということの意味を考えてみましょう。モックアップが一体ずつだけで事が足りると考えたということは、ここの溶接技術には殆どバラツキがなく均質化しているということを意味します。

<図17>(クリックで拡大します)

 その結果の残留応力を評価したのが図18 です。それによれば、当該スタブチューブ溶接部の中間部(ひび割れ部)に、特に溶接線方向に高い引っ張り応力が見られます。これは、実機のひび割れの方向とも符号します。
 さらに、運転開始以降の冷却水への溶存酸素濃度も、応力腐食割れが発生する可能性のある環境にあったと分析し、当該部のひび割れを応力腐食割れであると結論づけました。

 「最終報告」(甲)P.8でも、引っぱり応力が330MPa を超えるとひび割れると言っています。均質化した溶接技術のはずですから、少なくとも他の傾斜の急な(D,Eグループ)スタブチューブ44本についても、中間部には引っぱり応力が330MPaあることになります。他にもひび割れが全く無いと考えるのは無理ではないでしょうか。

<図18>(クリックで拡大します)

1号機は1988年にも中性子計測器収納管のひび割れ・水漏れ事故があり、6項でも述べたように、他にも多くのひび割れが想像されることからも、老朽化は明らかです。

 すでに、圧力容器の脆性遷移温度の上昇も確認されています。脆性遷移温度とは、金属がある一定温度より冷えると極端に脆さを増す、その温度のことです。老朽化によってその温度が上昇することが知られていますが、上昇するとその器機を常に高い温度で維持運用しなければならず、低温環境にさらすことは避けなければなりません。これは、緊急時に冷水を大量に炉内に注入するECCSが使用できなくなることを意味しています。

 いつ発生しても不思議ではないと言われている東海地震を前にして、この原発の老朽化という現実は、大事故の可能性をさらに大きくしています。そもそも、東海地震震源域の真上に原発を造ること自体、異常なことだと専門家は指摘しています。

 原発が地震にも安全だという人はほとんど、一番肝心な問題点を外して、安全と言っていることに気づきます。
 例えば、建物が倒壊しないことを原発の安全と取り違えていたり(多分意識的に)、または実際に振動を与えて大丈夫であることを確認していると言ったり、等です。
 私たちが地震の危険性を言うのは、巨大で複雑な原発のシステムへの打撃を言っているのです。実際に振動を与えて確認したと言うのは、多度津工学試験所での実験だと思いますが、それは、タテ・ヨコ15mの振動台テーブルにプラントの部分部分を縮尺したものを乗せてゆすったもので、システム全体が安全かどうかは調べられません。
 国や電力会社は、安全の実証を数字で示します。1995年の兵庫県南部地震で浜岡原発の設計加速度(ガル)を越えた数値が観測されると、設計の数字には余裕が見込まれていると強弁します。しかし、この「余裕」は、対象や材質のばらつきに対処するために必須の「余裕」なのです。このような言説は、安全に責任を持つ者の態度とは言えません。

おわりに

 これまで中部電力は、地元や周辺の市町村に、そして広く中電管内の私たちに、どれだけ安全の空手形を切って来たことでしょうか。何度期待を裏切られたことか。今回の水素爆発事故を見て、そして東海地震を前にして、今度裏切られる期待の代償が今までと同様であるとは思えません。
 02年9月20日以降約3ヶ月の間、中電管内では、浜岡原発4機が全て停止していました。しかし、停電が発生するなどの不都合は起こっていません。
 東京電力は、点検のため現在17基中13基が停止中です。(03/2/21現在)下の表でわかるように13基分1,200万kWを除いた残りの設備容量は、電源開発(株)、日本原電(株)等からの受電契約分1,125万kWを含めても5,963万kWとなり01年7月24日に出した最大電力6,430万kWにはるかに及びません。不測のトラブルが発生すると、一斉に停止点検をしなければならないような原発は、非常に不安定な電源設備であると言えます。
 中部電力が全原発を停止しても安心なのは、原発の設備容量が東京電力の27%に対し、中部電力が11%であるためです。

中部電力(株)

東京電力(株)
全設備容量(A)

3,223 万kW

6,038 万kW

原発設備容量(B)

362 万kW

1,731 万kW

B/A ×100

11 %

27 %
他社からの受電契約

272 万kW

1,125 万kW

過去の最大電力

2,750 万kW
(2001/7/24)

6,430 万kW
(2001/7/24)

 このような今こそ、そして東海地震を目前にした今こそ、原発を無くし、新しいエネルギー政策に向かう時です。

 中電が停止中の原発を、危険をかえりみず、これほど急いで運転再開したのは、今回の一連の事故から再開の既成事実を作り、事故の幕引きを行いたいからに違いありません。
 1号機事故以降、周辺の多くの自治体から安全・廃炉等を求める意見書が提出されていることを中電は無視すべきではありません。現地住民の声こそ、運転再開を許さないもっとも大きな力になり、原発震災を防ぐ力にもなるのだと、私たちは信じています。

【補足】
<非凝縮性ガスの蓄積箇所について>
(「最終報告」の矛盾に関するやや細かい考察)


 
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