<新刊パンフの紹介>

浜岡原発 1号機事故は終わらない

   〜 中部電力「最終報告」を批判する 〜

発行者:きのこの会
発行日:2003/3/1

 頒価:300円

ご注文は;anraku-t@a.email.ne.jpまで

  ---------もくじ----------
はじめに
1.1号機事故以降の経過
2.事故から見えてくる問題点
 A.本番だったら一大事
 B. 事故、故障、問題点が続出
(1)破断に伴って多くの器機が故障 

(2)運転員が事故の状況を把握するのに20分

3.非凝縮性ガス(水素・酸素)蓄積箇所を抽出する基準のあやまり
4.水素爆発の着火原因の推定の誤り
 A.“流入”ではなく“ゆらぎ”
 B.再現していない再現実験

5.ドイツ・ブルンスビュッテル原発事故に学ばない中部電力と国
6.ひび割れは「見ない」「知らない」
7.「安全第一」? いや「営業第一」!
8.老朽化と東海地震!
おわりに

番外:<非凝縮性ガスの蓄積箇所について>(「最終報告」の矛盾に関するやや細かい考察)

文中「最終報告」の区別>
● 「最終報告」(甲):「浜岡原子力発電所1号機 余熱除去系配管破断に伴う原子炉手動停止について(最終報告)」平成14年4月 中部電力株式会社
● 「最終報告」(乙):「浜岡原子力発電所1号機 制御棒駆動機構ハウジング部からの漏えいについて(最終報告)」平成14年4月 中部電力株式会社

*中部電力の報告書が閲覧できる場所:
 
中部電力・でんきの科学館 名古屋市中区栄2-2-5 tel: 052-201-1026
 
http://www.chuden.co.jp/e-museum/infomation/fre_info.html

 原子力安全委員会のウェブサイト「原子力事故・故障調査専門部会ワーキンググループ」 第10回会合資料など
 http://nsc.jst.go.jp/hamaoka/hamaoka_f.htm

*原子力安全・保安院の「最終報告書」が閲覧できる場所:
 原子力安全・保安院のウェブサイト(02/5/13発表資料):http://www.meti.go.jp/kohosys/press/0002719/

 はじめに

 去年の9月20日以降4ヶ月の間、浜岡原発全4基は、事故や緊急点検のため運転を停止していました。しかし、中部電力(株)(以下「中電」と言います)は、周辺住民、議会の強い反対と心配をよそに、去年12月20日、2号機の運転再開を強行しました。さらに1号機以下各原発の運転再開も準備中です。

 私たちは、中電が浜岡原発1号機事故について01年12月13日に提出した「中間報告」には重大な考え方の誤りがあることを指摘し、また去年4月24日の「最終報告」についても誤りを具体的に指摘してきました。

 しかし、中電は何ら納得のいく説明をしないばかりか、公開の説明会を拒否するという姿勢(02年6月の株主総会での答弁)をとっています。

 私たちは再度の事故を座して待つわけにはいきません。

 折しも去年8月29日、東京電力による原発事故隠し、データ・記録の変・捏造が発覚しました。内部告発による露見でした。以後中電、東北電力など沸騰水型炉(BWR型炉)を運転する各電力会社に問題が広がっています。

 このパンフレットでは、1号機事故の「最終報告」の問題点にほぼ限定して書いています。浜岡原発は現下に迫った東海地震の震源域の真ん中にあり、最も緊急の危険性が言われているわけですが、その点の掘り下げは当パンフレット制作には間に合わなかったので、少し触れるに止めました。

 再開された2号機との関連で言えば、構造も材質も1号機とほぼ同じですから、1号機の問題点(危険性)は2号機の危険性でもあり、同様に3号機の危険性でもあります。4号機には1号機で爆発・破断した配管部はないのですが、水素が蓄積する場所が他にも存在する可能性を否定できず、同じ危険性が危惧されます。


 私たちはこのパンフレットで次のことを訴えようとしています。

1. 事故の追試実験や分析に多くの間違いがあること。そのため事故の再発防止対策も当然誤ったものとなり、新たな爆発事故を防げないこと。

 事故原因の究明が誤っていれば、安全対策も正しくなく、安全の実現が困難であることは改めて言うまでもないことです。
 特にドイツのブルンスビュッテル原発で発生した1号機と同じ水素爆発事故についての調査・検討があまりにおざなりな点は、今後の安全対策の面から問題です。

2. 中電が常に口にする「安全第一」は事実ではないこと。

 東電事件は、電力会社による安全を無視した原発の運転の実態をさらけ出しました。
 普通に考えれば、電力会社も安全を願わない訳はありません。しかし発電コストが高い原発となると、停止することにブレーキがかかり、これくらいなら大丈夫だろうと考える、甘い予測が事故を招きかねないのです。事故は常に人間の予測を超えて起きています。

3. 東海地震を前に「震源地に建つ原発」の異常さ。

 このパンフレットでは、地震のことは特に取り上げてはいませんが、震源地の真上に建つ原発、そして平気で5号機を建設しているという、普通の感覚から見た「異常さ」を、常に感じながら書いています。

 東海地震は確実にマグニチュード(M)8以上(M7.3の兵庫県南部地震の11倍以上)になると言われています。万全だと言って建てる5号機。地震によって原発事故が発生した場合、具体的な責任の所在が明確になる法体制が準備されているのかどうか、この際改めて問いただしてみたいものです。

 私たちは、1号機の(そして3号、4号機の)運転再開を前に、いま一度1号機事故の問題点について皆さんに訴えます。

1.1号機事故以降の経過

 2001年11月7日、中部電力浜岡原発1号機の余熱除去系配管で、水素爆発による配管破断事故が発生しました。これは世界で初めて*であり、原発事故としては全く想定外の重大で深刻な事故でした。

 沸騰水型炉では、水素爆発を防止するため、格納容器内については水素濃度を4%以下にするよう規定していますが、配管内の水素蓄積については想像もしないことだったのです。

 1号機の破断箇所と同一の構造を持つ2号機は、検査のために1週間後の11月14日緊急停止されました。(同一の構造をもつ3号機は定期点検で当時停止中。**

 しかし、1号機事故の原因究明が終わらない昨年1月8日、3号炉については定期点検を終えたとして運転再開を強行します。(事故の「最終報告」が出されたのは3ヶ月半後の4月24日)

 一方、点検のため緊急停止していた2号炉は、5月24日に運転を再開してわずか半日後、余熱除去系低圧注入系配管の隔離弁(止弁)のドレン配管から毎分600ccの水漏れが発見され手動停止されます。圧力は通常運転のわずか14%でした。

 そこに、8月29日の東京電力の発表に始まる多数の原発での事故隠し、データねつ造、不正計測。中電も例外ではありませんでした。再循環系配管やシュラウドのひび割れ。中には運転継続をしてはいけない法令違反の深さに達したひび割れも隠されていました。1周におよぶシュラウドのひび割れも見つかった4号機。2号機について言えば、01年9月に福島第二原発3号機のシュラウドひび割れを受け、原子力安全・保安院から点検を指示されていましたが、結局十分な検査もせずに昨年12月20日、運転再開が強行されてしまいます。

(*水素爆発は過去に起きたことがあるが、配管が破断する事故は今回が初めて。)
(**破断した配管と同じ形に改造している最中だった。この時、2系統ある内の1本はまだ改造が終わっていなかったが、「バランスをとるため」という理由で中電は、両系統をわざわざ水素がたまる形に改造した。)


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水素爆発で破断し、めくれあがった肉厚約11mmの炭素鋼配管
  
原子力安全・保安院「最終報告書」P.81 より)

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 <図2>水素爆発で破断した余熱除去系蒸気凝縮系B系配管(原子力安全・保安院「最終報告書」より)

2.事故から見えてくる問題点

 A.本番だったら一大事

 1号機の配管の爆発・破断ということも異常なことですが、事故によって緊急炉心冷却装置(ECCS)の高圧注入系が使用不能に陥ったという事実が重要です。

 緊急炉心冷却装置は、原発の安全の「最後の命綱」です。高圧注入系は冷却水漏れ(中小口径破断で)の初期で大事故への進展を防ぐためのものですが、1号炉には1系統あり、その1系統が使用不能になったのです。

 幸い事故は、高圧注入系の健全性を確認する試験中の出来事でしたので、事なきを得たのですが、これが実際に必要な時に起こっていたらと考えるとゾッとします。

 設置許可申請書では、高圧注入系が不作動の場合の安全評価を行っています。(図3参照)図を見ると、事故後200秒で燃料棒の上部が露出し始め、350秒ごろウラン燃料は冷却水から完全に露出します。そして図4は、この時の燃料被覆管の温度変化です。

 国の安全設計基準では、被覆管の温度は1200℃以下と決められています。被覆管のジルコニウム合金であるジルカロイの融点は約1800℃。ジルカロイは水素を吸収すると脆化し、高温で強度が不足し、耐食性が低下するなどの著しい変化が見られる合金です。下の被覆管温度のシミュレーションは、新燃料時のジルカロイで行っていることに加えて、燃料集合体露出時の過酷な温度環境下では、厚さ0.94 mmの被覆管温度の変化は、被覆管の表面状態のちがいで熱伝達率が変わり、何百度かの違いを瞬時に生じてしまう可能性があります。

 燃料集合体の全露出を前提とした安全評価自体も受けいれ難いことですが、そうしなければ原発の運転ができないという、プラントとしての原発の危険体質を改めて認識させられます。

<図3>(浜岡原発1号炉設置許可申請書より)

<図4>(浜岡原発1号炉設置許可申請書より)

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B. 事故、故障、問題点が続出

(1) 破断に伴って多くの器機が故障

 破断現場の熱交換器室の重さ60kgの鉄扉が、蝶番(3ヶ所)の止めネジを全部(全数は不明だが12個又は18個か)引きちぎり、7m離れたフェンスに激突し、フェンスを変形させて止まりました。これは、当初うけとられたように爆発によるものではなく、爆発の後の蒸気の噴出によって破壊されたものでした。(発表は1ヶ月後の12月13日)

 このような蒸気の圧力、または爆発の影響によって多くの重要な器機が破壊・故障しています。これは重大事故へ発展する大きな可能性を示すものです。下に重要な幾つかを挙げてみました。

<主な器機の故障・破損>
・P629, P682, P686 計器監視不良
・P629, P683, P687 計器監視不良
・ECCS計測電源喪失
・125V DC主母線B地絡
・125V DC主母線Bモータ異常
・原子炉建家HVAC (換気空調系)故障
・原子炉建家HVAC故障
・非常用排気系ファン故障

 (2) 運転員が事故の状況を把握するのに20分!

 運転員が事故の状況を把握するのに20分を要しました。原子炉の停止決定はさらにそれから1時間後なのですが、停止決定の理由となった状況は、決定1時間前に把握されていました。つまり停止すべき状況にありながら1時間停止を決定しなかったのです。この時間に何が検討されたかは明らかにされていません。

 事故の状況をすばやく把握することは重要です。米国のスリーマイル島原発事故ではこれに失敗し、事故を一層重大なものにしました。

3.非凝縮性ガス(水素・酸素)蓄積箇所を抽出する基準のあやまり

 水素爆発の再発防止のために、非凝縮性ガスが蓄積される箇所を抽出することは最重要課題です。
 中部電力と国が抽出・選定する基準は次の2点です。

(a)上り勾配で行き止まりの配管
(b)蒸気が常時流れる母管からの距離が長く、著しい温度低下が起こりうる配管

 上の(a)(b)の基準にともに該当する配管が、水素の蓄積する箇所であると言うのです。
 実はこれは、爆発が起こった余熱除去系蒸気凝縮系配管の場所の特徴をそのまま説明しただけです。しかも、重大な見落としがあります。

<図5-1>

(a)について、中電に改めて問いただしたところ、配管の水平部分では非凝縮性ガスと水蒸気の間に「温度成層」が形成されないため、非凝縮性ガスの蓄積は起こらないというのです。

 しかし、右の頁の<図5-1>を見れば分かるように、今回爆発した箇所は、水溜め用に改造した配管のエルボ部まで1mの水平部があります。つまり1mの配管水平部で非凝縮性ガスの蓄積が始まり、45cmの高低差をもつエルボ部からさらに0.9mの“水平部”で蓄積が進んでいるのです。

 また、実機(=実際の1号機)は配管内滞留水面()から7.1mのところ()まで非凝縮性ガスが蓄積していたと評価されていますから、途中の1.8mと1.2mの配管水平部を通しても蓄積が進んでいることになります。

<クリックすると拡大します>     <図5-2>

 温度成層に関しても、中電は「鉛直配管部では、非常に狭い幅で急激な温度勾配が生じる境界層が形成されるが、水平配管部では温度変化は緩やかであり境界層は形成されない。」(中電「最終報告」(甲)P.23。)

 根拠となるデータは、<図5-2、図5-3>など(「最終報告」甲P.175〜176)としていますが、実際は、<図6、図7>を見ればわかるように、鉛直部より水平部に急激な温度勾配が出現(境界層の厚みが水平部の方が薄い)しており、これは明らかな矛盾です。このことは、事実でもって「最終報告」(甲)の誤りを示していることになります。

<図5-3>
原子力安全・保安院「最終報告書」P.95(「最終報告」甲P.175と同じ図)

 <クリックすると拡大します>

<図6-1・図6-2>原子力安全・保安院「最終報告書」P.98に加筆(「最終報告」甲P.196と同じ図)

<図6-3> 

 <図7-3>

 垂直配管の方が、180℃から280℃に温度が変化する「温度成層」(境界層)の厚みが厚い。

「最終報告」甲P.175〜176のデータは、時間を短縮して非凝縮性ガスを入れているため、配管内で気体が落ち着く前の温度測定であった可能性がある。

このように結果が矛盾し、正確さを欠く実験を行っているにもかかわらず、中部電力も原子力安全・保安院も、さらに原子力安全委員会もチェックできなかった。

 しかも、保安院の「最終報告書」にある鉛直配管での温度測定の結果を表したグラフ<図6-2>では、No.30〜No.25について測定値の番号の振り方に間違いがある。(赤で×をつけた数字)

<図7-1・図7-2 保安院「最終報告書」P.96 に加筆(「最終報告」甲P.193と同じ)
<クリックすると拡大>
 少なくとも、水平配管では水素が蓄積する可能性があります。また、(b)の「母管からの距離が長く、著しい温度低下が起こりうる配管」というのも、中間報告にはなかった“長い”の定義を、「最終報告」で初めて“内径の10倍以上”と大幅に対象を広げ、それまで見逃していた配管にも水素蓄積の可能性があるとした経緯があります。

4.水素爆発の着火原因の推定の誤り

A.“流入”ではなく“ゆらぎ”

 中電が出した「最終報告」(甲)では着火・爆発の原因の推定を次のように述べています。

「非凝縮性ガス層に高温の蒸気が流入し、着火に至った。この際、配管内に付着していた貴金属が触媒として作用した可能性がある」(P.28)

 果たしてそうでしょうか?

 まず、「最終報告」(甲)に言う“流入”とは実際どんな内容だったのでしょう。結論から言えば、非凝縮性ガス(水素・酸素混合)と凝縮性ガス(水蒸気)の境界層(=「最終報告」では“温度成層”)が“波を打った・ゆらいだ”というのが真相です。

 1号機の水蒸気温度は280℃。蓄積した非凝縮性ガスは180℃になっています。この両方のガス層の境界面は、水蒸気の含まれる割合の多い・少ないによって100℃の変動幅をもつ層となっています。これが「最終報告」に言う“温度成層”という意味です。

「最終報告」(甲)では、280℃の水蒸気が温度成層をつき破って180℃の非凝縮性ガス部分に“流入”し、着火に至ったとしたわけです。

 図7-2をご覧ください。図は温度測定を行った場所です。グラフは図中の各測定点の温度変化です。7.1mとある地点より下部が水蒸気、それより上方(左方)が非凝縮性ガス蓄積部分です。

 No.98、97、96の測定点のグラフを見ると、これらの点はその温度から判るように温度成層内に位置しています。温度成層が圧力変動で揺らいだ結果、温度の上下が見られます。「最終報告」が“流入”したというのは、No.91を指しています。190℃の地点の温度が280℃まで上昇しています。No.91から数cm離れたNo.88とNo.90は温度上昇が見られますが、それよりNo.91に近いNo.92には何の変化もありません。No.88とNo.90は1秒ほどで急速に温度が下がりはじめています。

 逆に、No.114、98、97、96等は、まず温度が下がっています。そして温度変化している場所では温度の上下が2回あるのですが、すべてその変化は1秒間です。複数回の変化とそれがすべて1秒間ということは“流入”ではなく“ゆらぎ”と考えるべき証拠でしょう。温度成層のゆらぎ面の波頭は2度やってきて収まったということです。

B.再現していない再現実験

 さらに、「最終報告」(甲)が“流入”による着火の根拠とした<図7-1、7-2>のNo.91の場所について考えてみます。<図 8>を見てください。No.91の温度は190℃です。同図の下の横軸の190℃を見て()、上の横軸()を見ると、約80%です。つまりNo.91は、約20%の水蒸気を含んだ非凝縮性ガスがある場所です。

<図8>(クリックで拡大)

 これに対し、着火の再現実験は図9のように行われました。水素・酸素の混合ガス100%を封入し、「差圧4気圧で288℃の」水蒸気を注入しました(図9、図10、表1参照)。

 前述の“流入”(本当は“ゆらぎ”)の実態とあまりに違う着火“再現”実験になっています。

 <図9>(クリックで拡大)
 そして、そのように着火に有利な条件で再現してもなお、表2のような結果です。104回の実験で4回の着火という内容でした。
<図10>
このようなノズルから4気圧で蒸気を吹き付けて実験した


 これではとても着火再現に成功したとは言えません。原子力安全・保安院の「最終報告書」もさすがに次のように書かざるをえませんでした。
「着火の要因は、貴金属が存在する状況で、非凝縮性ガスの中に高温の蒸気が流入したことによる可能性が高いと考えられるものの、着火の要因を完全に特定することは困難であった。」(P.53)

 これは次のように言い直すべきです。「着火の要因を特定することは完全に失敗した。」付け加えれば、次の項で述べるように、浜岡1号機事故の1ヶ月後、ドイツのブルンスビュッテル原発でも同じ水素爆発事故があったのですが、同炉には、貴金属の注入がなかったことがわかっています。再現実験では、貴金属なしでは一度も着火が実現できていないのです。

<表1> →より詳しい条件の表へ

試験ケース

非凝縮性
ガス分圧

着 火 源

蒸気温度

圧 力

貴金属あり

2+O2
約6.8MPa

288℃

約7.2MPa

貴金属なし

 非凝縮性ガスの圧力と、そこに注入する着火源としての蒸気の圧力の差は、0.4MPaあります。0.4MPaは4気圧のことです。
 車のタイヤ内の気圧が2気圧ですから、4気圧で蒸気を注入したということはその4倍の勢いで蒸気を吹き付けたということになります。前述の「温度成層に流入(本当はゆらいだだけ)」という実態からはあまりに大きくかけ離れています。
 

<表2> →詳しい表へ

付着物

組み合わせ

貴金属(ng/cm^3

貴金属なし

付着物
なし

合 計
付着密度

鉄酸化物
+貴金属

500

250

125

50

25

12.5

5

0.16

鉄酸化物等
試験総数

10

18

3

3

6

3

9

6

2

28

16

104
蒸気着火

1

1

0

0

1

1

0

0

0

0

0

4
 * 実機の貴金属付着密度の推定は11ng/cm^3 (「最終報告」(甲)P.209より作成)

5.ドイツ・ブルンスビュッテル原発事故に学ばない中部電力と国

 浜岡1号機が世界で初めて配管水素爆発・破断事故を起こした1ヶ月後の01年12月14日、ドイツのブルンスビュッテル原発で全く同様な配管の水素爆発・破断事故がありました。
(NucleonicsWeek:plattsウェブサイト参照 http://www.platts.com/features/brunsbuettel/article.shtml

 爆発の場所は、原子炉圧力容器の頂部にあるヘッドスプレイ系の配管で、圧力容器頂部から配管の長さで数メートルの所で、原子炉格納容器内です。<図11>(浜岡1号機の爆発は、格納容器の外、原子炉建屋内で、タービンに蒸気を送る主蒸気配管から、配管の長さで約100mの所)つまり、圧力容器のすぐ隣で起こった水素爆発でした。ヘッドスプレイは日本の沸騰水型炉に備わっている設備です。(図12参照)

<図11>(クリックすると拡大)

原子力安全・保安院は、02年3月18日、この事故について次のように評価し、日本の沸騰水型炉における同種の危険性を否定しました。

「我が国の頂部スプレイ系は、ブルンスビュッテル原子力発電所と異なり、主蒸気系とつながっておらず、配管内は水か空気で満たされている。従って蒸気が凝縮するような系統構成にはなっていないことから、現在の情報で判断する限りにおいては、同様の事象が発生するとは考えがたい。」

 続いて原子力安全委員会は、02年4月22〜25日にかけて、ブルンスビュッテル原子力発電所及び同発電所の規制庁、破断した配管を調査したシュツットガルト工科大学を訪れ調査を行い、同年5月14日、原子力安全委員会事務局の名前で文書を出しています。貴重な13行の「まとめ」の中で、「しかし、浜岡原子力発電所の事故においては水素ガスの発生は・・・・この点は、浜岡原子力発電所の事故とは異なると思われる。」という殆んど意味のない記述に4行半が費やされています。これは、この報告書の希薄さ、調査への緊張感のなさを示していないでしょうか。それに続く文も、「・・・系統はないとされている。」と何とも頼りなく、・・・関心を払うべきと思われる。」とまるで他人事です。「中部電力浜岡原子力発電所1号機における配管破断事故原因調査に資することを目的に」(同上文書)4日間も現地聴取した結果がこんな内容なのでしょうか。

 反面、聴取内容で、「当該配管及び関連機器等の配置」の項目がありながら、なぜか重大なこの図は添付されていません。入手できなかったのでしょうか、あえて添付しなかったのでしょうか。  

<図12>(クリックすると拡大)
)

 ちなみに、中電と国の原子力発電所安全・保安院の「最終報告(書)」は、聴取報告文書が出される20日前の4月24日に既に出されています。その国の最終報告書でも「着火の要因を完全に特定することは困難であった」(P.53)とあるのですから、「浜岡1号炉原因調査に資する」ためには、もっと真剣な調査報告になって当然だと思います。浜岡1号機事故と同じ水素爆発・破断事故を起こしたブルンスビュッテル炉の事故内容は、浜岡事故の原因究明にとって、そして再発防止のためにも詳細に調査検討されなくてはならない貴重な事例です。何より、水素爆発による破断というような事故がいかに危険な事故であるのかをまざまざと示しているからです。

その危険な内容とは、

@ 爆発が格納容器内の圧力容器のすぐ近くで発生したため、もし圧力容器直近の隔離弁が吹き飛ばされていれば、圧力容器内の冷却水が失われることを止める手段がないこと。

A 1号機事故でも60kgの鉄扉が7m離れたフェンスに激突するほどの蒸気の圧力を示しましたが、もしこの圧力が格納容器の隔離性(機密性)を失わせてしまったとしたら、炉心溶融はまず避けられないでしょう。なぜなら、最大過酷事故と想定される大口径破断での冷却剤喪失事故も、冷却剤が格納容器内で受け止められ、ECCSにより炉心に戻されると想定されているからです。この想定が成り立たなくなってしまうのです。

B 原子炉建屋内で発生した1号機事故でも、蒸気によって多くの機器の故障や電源の地絡等が起こっています。(リスト参照)格納容器内には、圧力容器外側下部に制御棒駆動機構をはじめ多くの重要機器があり、圧力容器外側側面には再循環系の配管があります。これらの機器が破壊されたり、また機能が不全を起こさないと考えることは不可能でしょう。

@の結果として発生しうるAに加えて、Bの結果を想定すれば、それらの結果は想像を超えた事故の内容、展開になることは間違いありません。

 さて、ブルンスビュッテル炉が示唆する問題点は何でしょうか。ここでは次の2点が未解明であるという事実の重要性と、そして未解明なままで1号機事故の安全対策を万全として運転再開をしようとしていることの問題を指摘しておきます。

未解明の2点とは;

@ 非凝縮性ガスが蓄積されるに至った蒸気の系路が確定されていないこと。
A 着火の原因が不明であること。      -----です。

 同じ水素爆発でありながら、@についてもAについても、浜岡1号機事故の場合とブルンスビュッテル炉の場合とでは、ずいぶん内容がちがいます。従って、これが詳細に検討されなければ新たな水素爆発事故は防げないはずです。国や中電の何とも甘い事故評価。その結果としての甘い安全対策と言えるのではないでしょうか。

6.ひび割れは「見ない」「知らない」(次のページへ)

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