情緒的で非科学的な中部電力

 1月30日、きのこの会及び中部よつ葉会有志などの市民は、浜岡原発1号炉事故に関するヒアリングに先立ち、3号炉の運転再開に対する抗議と申し入れを行いました。

 申し入れの内容は、2日前に中部電力の広報に通知し、申し入れに対するコメントをこの日にもらう手はずになっていましたが、中部電力はあくまでも受け取るのは30日だから「これから検討させていただく」と言うだけで、その日の回答を拒みました。

 何のために事前に通知していたのか・・・こちらはまったく裏切られた気持ちです。3号炉の運転は既に再開されており、申し入れの内容は、3号炉においても解決されていない問題に警告を発する内容です。3号炉は安全だど判断した論拠について、なぜきちんと自信をもって答えられないのでしょうか。

 申し入れ書にあるとおり、こうした中部電力の姿勢そのものが「未必の故意」でしょう。

 中部電力は、「当面はそれ(隔離弁をつけたこと)で水素は溜まらないから大丈夫であるとして」運転再開をした、としか言いません。
 どれだけの期間運転すればどれだけの水素が溜まるか、どういう条件であればどれだけどこに溜まるか(必ずしも上り勾配の配管でなくても水素が溜まる可能性がある)ということさえ、まだはっきり掴んでいないのに、「当面は」などというアバウトな言葉で、原発を安全運転できると考えているのです。これが科学的態度と言えるでしょうか。

抗議並びに申し入れ

中部電力(株)社長
川口文夫殿

2002年1月30日
きのこの会
名古屋市昭和区花見通1-59

貴社は定期点検中の浜岡原子力発電所3号炉を運転再開すべく、2002年1月8日同炉を起動し調整運転に入りました。「異常」がなければ約1ヶ月後に営業運転に入ると報道されています。

 しかし3号炉を起動することは、2001年11月7日の同1号炉の緊急炉心冷却系と同通する余熱除去系蒸気管の爆裂破断事故(推定)、2日後に発見された制御棒駆動機構と圧力容器の溶接部のひび割れ漏えい事故を全く無視し、安全性確保の観点から、その重大な経験と意味を看過し、安全運転に資する深刻な示唆をあえて見ようとしない態度であると判断します。

 その意味で、今回の運転再開は安全運転への責任を放棄したものであり、今後起こりうる一切の事柄の結果について、未必の故意を構成するものだと指摘しておきます。

 ここに、中部電力の3号炉運転再開に抗議します。
 直ちに3号炉の運転を停止し、1号炉の事故原因を徹底的に究明し、公開すると共にその内容の科学的妥当性が社会的に認められるまで、2,3号炉の運転再開をしないように申し入れます。(1号炉については、既に2001年11月14日申し入れの通り、私たちは直ちに脱原発へ着手すべきと考えていますが、今回の申し入れは1号炉事故により、直接指示される内容に限っています。)

 以下に今回の申し入れをするに至った理由と、その理由の一つでもある中部電力の「中間報告」と、それを受けた原子力安全・保安院の「調査の中間とりまとめ」の誤り、不十分と思われる点を指摘し、3号炉運転再開の不可なることの理由の参考とします。

1.中部電力、国(原子力安全・保安院)共に中間報告を提出した段階であり、事故について多くの未解明の点を残した現状での再開であるということ。

 従って今回の事故が要請する新たな安全対策(ハード、ソフト、その他)についての全体的指針は出ていないし、また当然出ようのない現状であるということ。ハード面は当然として、あまり言われていないソフト面、つまり運転員が当初かなり長い時間、事故の内容を把握し得なかったことについての内実の検討、及び改善点への言及がないこと。当然の事ながら両報告とも最後の部分で、今後取り組むべき内容を概述しているところである。(その概述も不十分と思うが)

2.原子力安全・保安院の安全性評価=対応指針のあやまりと不充分

(1)高濃度水素が滞留する可能性がある類似箇所の評価のあやまり

 保安院は類似箇所の選定を5つの基準で行っていて、それに該当しない配管を除外している。つまりこの方法だと5つの基準にすべて該当する配管のみが抽出されることになる。これは安全論は保守的に考えるという基本にはずれる。実際、例えば上の基準のうち4つの基準を満たすケースは5つある訳だが、それを想定してみればいかにこの評価が間違っているか想像できる。

(2)類似箇所抽出のあやまり、不確かさ

 基準1で水素と酸素が蓄積滞留する箇所として、上がり勾配で行き止まりとなっている配管としている。
 しかし1号炉A系の滞留ガスを採取(12月4日)分析した結果は、水素0.6%、酸素19%、窒素79%と、ぽぽ大気の気体組成を示している。2号炉のA系B系の水素濃度はそれぞれ46%と27%である。1号炉のA系も同等又はそれ以上と推測して不当ではない。A系とB系は同通しており1号炉A系の上掲の組成はB系の破断箇所から大気がA系当該箇所に入りほぽ水素と置き代わった(混ざり合った、ではない)ことを示している。つまり両者の相対関係の中で重い酸素、窒素が上向し、軽い水素が下向したことを示している。このことは、「上り勾配で行き止まりとなっている配管」のみに危険性があると断定できないことを示している。

 また、基準2からは、危険性の発現には水素の濃縮過程が必要との前提であるがこれもおかしい。濃縮という前に濃縮以前の発生の段階で、単位時間当たりの発生量、(脱気過程もあるから)平衡状態での濃度を定量し、水素爆発の限界条件を確定した後に、安全論を展開すべきであり、原子力安全・保安院(従って中部電力)の評価は誤りである。
 さらにこの点から考えて、配管内各所の気体組成の分析が行われていないのは事故原因調査の内容として欠陥である。

 また濃縮箇所の特定にしても、水蒸気の継続的凝縮による濃縮を推定するわけだが、だとすれば配管各所の温度を測定検出しなければならないはずである。
 しかし、中部電力の回答でも温度は測定していない。保安院の中間報告では、母管から「距離が長くて著しい温度低下」の配管とあるが、これでは具体的選定は不可能である。

3.設置許可申請書への影響

 今回の水素爆烈(推定)事故は世界で初めてである。設置許可申請書でも配管内の水素爆発についての記述はなく、当然安全評価もない。ただ原子炉建屋内の水素と酸素の濃度制限数値をを設定するのみであり配管内の水素も建屋内濃度への影響の点でのみ記述される。
 そうだとすれば今回の事故は当然安全設計の見直しと、設置許可申請書の安全評価の追加、見直しさらに保安規定の修正に及ぶ筈である。
 3号炉が高圧注入系と分岐する下流直近に弁を設置して安全設計への対応としたことは、これまでに述べた点から考えて全く誤り、不充分である。

4.設計ミスである。

 余熱除去A系、B系及び高圧注入系の配管すべてが4系統ある主蒸気配管の1本から、1本の分岐管で導かれている構造は明らかに設計ミスである。これを放置したままの運転再開は許されない。(注*)

5.運転再開に至る中部電力の対応(主にPA面)の誤り

 再開に至る地元との通知・連絡説明了解、納得etc、要するにコミュニケーション全般からみるに、3号炉運転再開については、通常の定検、再開の手続きから何ら外れる意味を持たないかの意向、認識が見られる。
 むしろ、無理にもそのようなこととして押し通そうとするかに見える。その理由の推測はとりあえず慎むとしても、そのような態度は今回の事故から、その意味をくみ取ろうとしないものである。

 何より地元の意志を無視する態度は許されない。また原発の運転が、社会、地元の同意の上に成り立ってこそ、運転員のヒューマンな部分に良好な影響を与え、安全面に寄与するものであることを知るべきである。
 安全論は原発のシステムや運転マニュアルだけで論じられるべきではない。

以上

(中間報告についての批判は3号炉運転に関連する限りのものであって包括的ものではありません)

(注*)------------------
 これは、高圧注入系ECCSと余熱除去系蒸気凝縮系配管との分岐部分に新たに隔離弁を設置したとしても、その隔離弁の上流の配管(少なくとも10m以上はある)が何らかの理由で1箇所破断した場合には、3系統(高圧注入系ECCS、余熱除去系蒸気凝縮系A系及びB系)がいっぺんにすべて使えなくなる。本来は3系統が独立してそれぞれ圧力容器につながっていなければならないものではないか、という問題を指摘している。
 しかし、30日のヒアリングで、中電曰く「余熱除去系蒸気凝縮系の2系統は廃止しても構わない系統」と説明したので、実際的なダメージの度合いについては当初考えていたよりも少ない可能性がある。

【2002/1/31中日新聞 愛知県内版】


 →1月30日中部電力との話し合いの報告