【2002年5月1日 毎日新聞(朝刊)】

020501毎日新聞

東海地震震源域の浜岡原発

老朽2基廃炉にすべき

 中村 牧夫(掛川通信部)

震災被害防ぐために

 静岡県浜岡町の中部電力・浜岡原発1号機で、重大事故が相次いでからほぼ半年が経過した。中電は4月24日に事故の最終報告書を発表し、運転再開を目指して住民への説得を始めた。地元では「老朽化」を指摘する声が根強いが、他の商業用原発に波及しかねないため、中電や経済産業省は全面否定している。しかし、浜岡原発は東海地震の想定震源域にあり、見過ごされた老朽化が原発震災という人災を引き起こさないとも限らない。国は直ちに浜岡原発のうち古い1、2号機の廃炉を検討すべきだ。

 最終報告によると、緊急炉心冷却装置(ECCS)系の配管破断は、配管内にたまった水素に高温の蒸気が入り込んで着火し、水素爆発が起きた結果だった。老朽化対策のために注入した白金が反応を促進させる触媒として働いた。原子炉圧力容器からの水漏れは、高温・高圧の繰り返しと腐食が同時に進む「応力腐食割れ」が原因。原子炉と一体成型した部位の損傷で、専門技術者も老朽化を疑っている。

 浜岡−号機は76年3月の運転開始で、すでに26年がたち、2号機も24年目だ。国内で稼働する商業用原発52基の中では10番目、13番目に古く、当初は30年といわれたプラントの寿命に近づく。経産省は原発の「高経年(老朽)化対策」で、30年を過ぎた原発については、10年に一度の定期安全評価を行って延命させている。中電は米国などの実績をもとに「1号機も60年は安全に運転可能」と強調する。しかし、世界を見渡すと30年以上なら廃炉を選択する例がほとんどだ。

 茨城県東海村の日本原電の東海発電所は98年、稼働32年で廃炉となった。老朽化で事故が多発していたのに、同社は「出力が低く効率が時代に合わない」ことを廃炉の理由に挙げた。

 日本の事業者や経産省が「老朽化」という言葉を極端に避けるのは、原子力行政を巡る現況を色濃く反映している。住民の反対で新規立地がほとんど進まず、コストも高騰。既存の原発を少しでも延命させて発電容量を確保する必要があるからだ。中電の川口文夫社長は、緊急点検中の2号機を夏までに、1号機を上期(10月末)中に稼働させたい意向で、経産省も追認することになるだろう。

 政府の中央防災会議の推定によると、東海地震で浜岡町は震度6強の強い揺れと5〜10メートルの津波に襲われる。静岡県は第3次被害想定で、県内の死者数は最大で5851人、倒壊家屋は15万戸以上と推測したが、浜岡原発の被害は「軽微」とした。県全体が壊滅的な被害を受けるのに原発だけはなぜ「安全」なのか。これは原発の耐震性が、国の原子力安全委の「耐震設計審査指針」で保証されているためだ。

 しかし、この指針は78年に作られ、81年に一部改定されてから20年間更新されておらず、学界でも「地震学の新しい知見を加えるべきだ」と指摘されている。中央防災会議は昨年末、東海地震の想定震源域を22年ぶりに見直し、多重震源による複雑な震源断層モデルを作成した。26年前に東海地震説を初めて唱え、見直しにもかかわった石橋克彦・神戸大教授(地震学)は「浜岡原発の耐震性評価は、私が作成した当初の単純な震源断層モデルで行われている。新たなモデルで計算した地震動による検証が不可欠だ」と主張する。

 特に浜岡1、2号機は東海地震説が出る以前の設計。中電は指針に基づいて再評価し「新しい3、4号機と同様の耐震性を持つ」と結論付けた。しかし、事故を繰り返す1、2号機に、住民の多くは中電を信頼できず、不安を募らせる。

 市民グループ「浜岡原発とめよう裁判の会」は4月25日、東海地震の前に浜岡原発4基の運転を差し止める仮処分申請を静岡地裁に起こした。原発や関連施設の設置許可取り消し、運転差し止めを求めた裁判は過去に18件(10件は係争中)あるが、住民の請求が認められた判例はない。今回も住民側が明確に「老朽化」を証明できなければ、司法の判断は住民に厳しいものになるだろう。

 しかし、原発震災で放射能が飛散する取り返しのつかない事態はどうしても避けるべきだ。必ず起きる東海地震による原発震災を食い止めるためには「予防原則」を適用して国が原発を止める決断をするしかない。中電の供給予備力は約300万kWあり、計138万kWの浜岡1、2号機を停止しても影響はない。国は「老朽化」を見過ごす「重大な失政」を引き起こしてはならないと思う。

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